転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


56 大惨事は前触れ無くやってくる



 北門近くの商店街で服とか薬とかを買った後、僕たちは予定通り冒険者ギルドに向かったんだ。
 そしたらなんかギルドの方が騒がしいんだよね。
 入り口前にも馬車が何台か停まってるし。

「あれ、どうしたんだろう?」

「確かにおかしいな。普段なら正面入り口に馬車を乗りつけるなんて事はしないはずなんだが」

 僕と一緒で、お父さんも冒険者ギルドの様子がおかしいって思ったみたい。
 そう言えば買い物に来たり物を売りに来る馬車なら普通は裏に回るはずだから、あんなにいっぱいの馬車が入り口前に停まってるなんておかしいよね。
 それに周りの人たちもなんか慌ててるみたいだし。

「ルディーン、とにかく行ってみるぞ。何か手伝える事があるかもしれないからな」

「うん!」

 こうして僕たちは冒険者ギルドの入り口へと急いだんだ。


 ■


 時は少しだけ遡る。

 今日もイーノックカウ近くの森には動物や魔物を狩る為や薬草採取の為に多くの冒険者が訪れていた。
 そんな冒険者の中の1グループ、動物を狩る為に探索を行っていたFランクの4人パーティーがある獲物を見つけたことがこの事件の始まりだった。

 そのパーティーが見つけた獲物はブルーフロッグという中型犬くらいの大きさの蛙だ。
 この蛙は魔石を有していない為に魔物と認定はされていないものの魔力溜りの影響による変化で巨大化しており、またこの森に生息する動物の中でもその肉が高値で取引されている為に狩り目的の冒険者たちにとっては恰好の獲物となっていた。
 ただ、その日見つけたブルーフロッグには一つ問題があった。
 それは見つけたのが単体ではなく小さな群れであったと言う事。

 ブルーフロッグ自体はとても弱く、Fランク冒険者でも2人で1匹くらいならば簡単に倒す事が出来る。
 しかしその時、目の前に現れたのは20匹を超える群れであり、そのまま戦闘になればたった4人しか居ない彼らではとても敵う相手ではなかったのだ。

 ここでおとなしく引き下がっていたのならこの後の悲劇は起こらなかったであろう。
 しかし、その群れを見つけた時間と場所が彼らの判断を狂わせる事になってしまった。

 ブルーフロッグの群れを見つけた場所は森の中でもそれ程深い場所ではなく、また入り口から繋がる道にも近かった。
 その上時間はまだ朝の内、この時間なら当然複数のパーティーが森の中へと入ってきているはずだと考えた4人は遠くから矢を射り、ブルーフロッグの群れをつれて道まで逃げればそこにいる冒険者たちと協力して倒す事が出来ると考えてしまったのだ。

 実の所、この判断はそれ程間違った話ではない。
 と言うのも、この行為自体は今森に入ってきているであろう冒険者たちにとっても悪い話では無いのだから。
 なにせ本来なら森に分け入って探さなければ見つける事のできない獲物が、それも楽に倒せて高く売れる獲物が向こうから来てくれるのだから、巻き込まれた冒険者たちも嬉々としてブルーフロッグたちを狩ったことだろう。
 ただ、それがブルーフロッグだけだった場合の話なのだが。

 ブルーフロッグには、よく似た変異種が存在する。
 それはポイズンフロッグと言う魔物で、体の色が青紫色の為に遠目ではブルーフロッグとは見分けが付かない魔物だった。
 外見上の特徴としては角が肥大し、体もブルーフロッグよりも一回り大きい。
 そして何より違うのはその名前の通り毒を持つ魔物であると言う事だった。

 そう、このポイズンフロッグは魔物である。
 ブルーフロッグの変異体とは言えその強さは大きく異なり、普通に戦った場合1匹でもFクラス冒険者なら6人、Eクラス冒険者なら3人は居ないと対抗できないほどの強さになっている。
 おまけにこのポイズンフロッグは、名前の通り毒を持っていて、何よりこれがこの魔物をより厄介な存在へと変えていた。

 この魔物は此方から攻撃を仕掛けなければ襲ってくる事はないのだが、いざ戦いになると口から麻痺毒を噴射して相手の自由を奪い、致死性の毒を持つ舌や角で攻撃してくる。
 それだけに戦うにはリスクが大きく、それらの攻撃に対応できる装備をしていないパーティーでは例え適正人数がそろっていたとしても普段は素通りする事が多い厄介な魔物なのだ。

 そして運が悪い事にこのブルーフロッグの群れにはポイズンフロッグが混ざっていたのである、それも5匹も。

 Fランクパーティーの4人はその事実を知らずに弓を射り、ブルーフロッグの群れを率いて森の入り口より伸びる道まで逃げてしまった。
 結果そこに居るほかのパーティーをも巻き込んで大混乱に。
 やがて形勢不利と見た冒険者たちが森の外へと逃げ出したために、ポイズンフロッグは商業ギルドの天幕まで到達して大惨事になってしまうのだった。

 その後、幸い幾つかのDクラスパーティーがまだ入り口付近にいてくれたおかげで、なんとかポイズンフロッグとブルーフロッグの群れを撃退はできたのだが、そのころには非戦闘員であるギルド職員や森の入り口で店を開いている者たちにも毒に犯された者や骨折以上の大怪我を負ったものが多く出てしまっていた。

 一応商業ギルドにも常備してある毒消しポーションや出向してきている見習い神官もいるにはいるのだが、今回は被害が多すぎる。
 毒消しポーションは非戦闘員たちの分だけで底をつき、治療ができる神官も見習いだけにそれ程多くのMPを持たないため、あまり多くの怪我人を治療する事ができなかった。
 結果大きな怪我をしたり毒を負った冒険者が居たとしてもそちらにまで治療の手が回らず、しかしそのまま放置してはいずれ多くの死者が出ると言うことで急遽、商業ギルドや商店の馬車で毒を受けたり自力で動くことができない冒険者をイーノックカウまで運ぶ事となった。


 この状況に頭を抱えたのが冒険者ギルドの職員たちである。
 馬を飛ばして馬車より先に到着した伝令によってこの話を伝えられたものの、普通なら商業ギルドで治療される事から毒を負ったまま冒険者ギルドまでたどり着く者など殆どいない為に毒消しポーションなど殆ど置いてはいなかったし、ここに出向してきている神官も商業ギルド同様見習いである。

 言ってしまえば森のすぐ外にある商業ギルドの天幕よりもこの冒険者ギルドの方が、事治療と言う一点においては遥かに劣る環境なのだ。



「とにかく受け入れ準備を。誰か薬局へ行って毒消しポーションを仕入れてきて。後、中央神殿に救援を要請。毒消しの魔法が使える神官を回してもらわないとポーションだけではなんともならないわ」

 その日、受付業務をしていたマリアーナ・ルルモアは、この報を受けて近くに居るギルド職員たちに指示を出していた。
 長命種のエルフである彼女はこのギルドの中でも勤続年数はトップクラスであり、この手のトラブルの時は自然と中心となって動くことになっていたからだ。

「後誰か錬金術ギルドへ行って頂戴。たとえギルドマスターがいなくても多分伯爵様がいらっしゃるでしょうから毒消しポーションを作ってもらってきて。多分薬局にもそれ程在庫がないはずだから、毒を負った人を大勢をつれてこられたら多分足りなくなる」

 イーノックカウ近くの森に生息する魔物の殆どは巨大化かボーン属性で状態異常属性のものは少ない。
 それだけにあまり売れない毒消しポーションは薬局と言えどもそれ程多くは在庫を持っていないのだ。
 しかし伝令によれば結構な数の冒険者が毒を負っていると言う事なので、急いで製作してもらわないと絶対数が足りなくなる事が予想される。
 だからこそ、彼女は錬金術ギルドに製作依頼を頼もうと考えた。

「あと、誰か奥に行ってカルロッテちゃんに休みように言って来て。今日はまだ殆ど治癒魔法を使って居ないと思うけど、この後かなりの数を治療してもらわなければいけないから、少しでもMPを回復させておかないと」

 そして最後に神殿から冒険者ギルドに出向して来ている女性見習い神官にも休むように指示を送る。
 中央神殿からの救援が間に合えばいいけど、最悪の場合彼女にはMPが枯渇するまで治癒魔法をかけてもらわないといけないのだから。



 それから20分ほどした後、冒険者ギルドの中は野戦病院さながらの地獄のような光景になっていた。
 次々に運び込まれる、毒を受けたり怪我をしたりして1人で歩く事もできない冒険者たち。
 中には毒によって顔色が青を通り越して紫色になっているも者までいるが、毒消しポーションはギルドに運び込まれた時点で血を吐くほど毒が回っていた者が複数いたので近くの薬局からかき集めた物も含め、全て使ってしまってもうここには1本も無い。
 
「大丈夫ですか!? しっかりしてください」

 見習い神官のカルロッテも必死に治療して回ってはいるものの、彼女はまだ傷の治療ができるだけで毒の患者にはまったくの無力。
 それでもMPが枯渇してふらふらしているにもかかわらず、倒れている冒険者たちに声をかけてなんとか励まそうとしてくれていた。

「中央神殿からの応援はまだなの?」

「一報が入ってすぐに人をやりましたが、ここからの距離を考えると後30分はかかるかと……」

 このイーノックカウは地方とは言え大都市と呼べるほどの大きな街だ。
 すぐに助けを求めに走ったとしても神殿に到達するのにも、その神殿から救援が来るのにもそれ相応の時間が掛かってしまうのは仕方が無かった。
 それだけに自分でも解ってはいたのだが、改めて近くに居る職員からそう答えが帰って来た事によりその現実を再認識して、ルルモアは絶望に頭を抱える。
 そんなに時間が掛かっていては間に合わない者が何人かでてくるのは誰の目にも明らかなのだから。

 ああ、こんな事なら劣化破棄を恐れず、もっと多くの毒消しポーションを常備しておくべきだった。

 今更そんな事を考えても何の意味もないのだけれど、彼女はそう思わずには居られなかった。
 そんな時である。

「なんだこりゃ!」

 一組の親子が冒険者ギルドの扉を開けて入ってきて、その親が驚きの声をあげた。
 その声に驚いてドアのほうに目を向けたルルモア。
 彼女はまさかこの親子の登場によってこのギルド最大の危機を無事脱する事ができるなどとは、この時はまだ想像すらしていなかった。




 まさかのシリアス展開。
 まぁ、今回だけですがw


 ボッチプレイヤーの冒険が完結したら、この作品は別の場所に投稿を開始します。
 その時は衝動のページとしてのリンクを外しますから、それまでにこのページに直接リンクするか、リンクの部屋の説明文にある最後の。をこのページにリンクさせているので、以降はそのどちらかからこのページにアクセスしてください。
 リンクを切ってからも今と同じペースでこのページに最新話をアップするので。

57へ

衝動のページへ戻る